転職を考える求職者と、人材を求める企業。その双方にとって、本当に幸せな出会いとは何だろうか。
株式会社JobConciergeの代表を務める江﨑龍久さんは、一人ひとりの経験や適性を丁寧に紐解き、本人も気づいていなかった可能性を見つけ出す人材紹介を行っている。
売りたいものを無理に勧めるのではなく、困っている人と困っている企業を結びつける。
その仕事への向き合い方の根底には、江﨑さん自身の誠実な人柄があった。
今回は、職業紹介事業を始めた経緯、コロナ禍での独立、幼少期の経験、そして起業を志す人に伝えたい「経験値」の大切さについて話を伺った。
まずは、株式会社JobConciergeの事業内容を教えてください。
弊社は職業紹介事業を行っています。簡単に言えば、転職エージェントですね。
自分の会社として始めたのは2021年ですが、前身となる会社で事業を始めたのが2018年なので、通算では8年ほど携わっています。
大手の転職エージェントと、基本的な仕組みは同じなのでしょうか。
やっていること自体は同じです。
ただ、大手の場合は非常に多くの求職者を集めて、ある程度は流れ作業のように対応せざるを得ない部分もあると思います。
もちろん、強い思いを持って仕事をしている担当者もいると思います。ただ、会社員である以上、会社から求められる数字やノルマがあります。
企業との関係性によって、「この会社に何人紹介してほしい」という事情が発生することもあるでしょう。
そうなると、必ずしも求職者にとって最適な仕事を紹介できるとは限りません。
洋服店で、本人に本当に似合う服よりも、店側が売りたい服を勧めてしまうようなことですね。
そうですね。
転職させることや、採用を成立させることが優先されてしまうと、本当にその人の思いを汲み取り、寄り添えているのかという疑問は残ります。
私たちは規模が大きくない分、一人ひとりと丁寧に向き合えるのが強みです。
丁寧に面談をすることで、どのようなことが見えてくるのでしょうか。
求職者から「こういう仕事がしたい」と言われて、その希望に合った求人を紹介するだけなら、それほど難しいことではありません。
ただ、話を詳しく聞いていくと、
「こういう仕事もありますよ」
「その経験は、別の業界でも活かせますよ」
と、本人が考えていなかった選択肢を提案できることがあります。
その人自身が気づいていなかった仕事に出会い、実際に長く続けられていると、やはり嬉しいですね。
そこは、第三者として客観的に話を聞くエージェントだからこそできることだと思います。
本人の希望をそのまま肯定するだけではなく、その人が長く活躍できる道を一緒に考えるのですね。
そうですね。
たとえば、希望している業種に何度も転職して、そのたびに続かず辞めているのであれば、もしかすると別の道があるのかもしれません。
その人の適性を見極め、長く続けられる仕事を提案することが、本来エージェントに求められている役割だと思っています。
もちろん、全員にこちらの提案を受け入れてもらえるわけではありません。
強い意思を持って「どうしてもこの仕事をやりたい」という方もいます。その場合は、その思いを尊重して応援することも私たちの仕事です。
ただ、面談を通して自己理解を深めてもらうことは、ご本人にとっても、採用する会社にとっても重要だと思います。
現在は求人サイトも数多くあります。個人で転職活動をする場合との違いは何ですか。
求人サイトには、たくさんの企業や求人情報が掲載されています。
ただ、そこに書かれている情報だけでは、会社の実態はなかなか分かりません。
給与や仕事内容、職場の写真などは掲載されていますが、実際の会社の雰囲気や内部の状況までは見えにくいですよね。
良さそうに見えた会社へ入社しても、実際には自分に合わず、すぐに辞めてしまうケースもあります。
私たちは企業の人事担当者と直接やり取りをしています。
そのため、
「この会社は、このような考え方で運営されています」
「あなたの価値観には、この部分が合うと思います」
と、求人票だけでは分からない情報も含めて提案できます。
求職者だけでなく、採用する企業にとってもメリットがありますね。
そうですね。
求人媒体は、掲載するだけでも費用がかかります。多くの応募者を集め、その中から良い人を選べればいいのですが、応募自体がなければ、掲載費用が無駄になってしまうこともあります。
私たちは時間をかけて人選し、企業との相性が高いと思われる方をご紹介します。
企業にとっても、採用後に長く働いてくれる可能性が高まります。
求職者、企業、そして私たちが、それぞれ幸せになれる。真面目に取り組めば、人材紹介は全員が幸せになれる仕事だと思っています。
求職者は、サービスを利用するために料金を支払うのでしょうか。
求職者の方は完全に無料です。
採用が成立した際に、企業側から紹介料をいただく仕組みになっています。
江﨑さんが、この仕事を始めたきっかけを教えてください。
この仕事をやってみたらどうかと勧めてくださった方がいたことがきっかけです。
私は、もともと物を売ることが苦手でした。
先ほど洋服店の話がありましたが、本当は似合っていないと思っているのに「似合っていますよ」と言って売ることができないんです。
自分自身が良いと思っていないものを、人に勧めることができません。
非常に誠実なのですね。
人材紹介は、いらないと言っている人に無理やり何かを売り込む仕事ではありません。
「仕事を探している」という方と、「人材を探している」という企業を結びつける仕事です。
困っている人と困っている人をつなぐことで、仕事になる。
そういう仕事が向いているのではないかと言っていただき、右も左も分からない状態から始めました。
最初からご自身で会社を立ち上げたわけではなかったのですね。
最初は、前身となる会社で事業を担当していました。
その後、会社を畳むことになり、事業を引き継ぐ形で独立しました。
独立した時期は、ちょうどコロナ禍だったそうですね。
そうですね。大変な時期でした。
企業が採用を止めてしまうので、人材紹介の仕事には大きな影響がありました。
人を紹介したくても、そもそも企業側が採用しない時期ですよね。
そうなんです。
ただ、今振り返ると、あの時期を乗り越えられたことは大きかったと思います。
人生で一度起こるかどうかという規模の経済危機の中で、会社を潰さずに続けてこられた。
その経験は、自信になっています。

江﨑さんは、とても誠実で穏やかな印象があります。一方で、会社を立ち上げるには勇気や行動力も必要です。どのような幼少期を過ごされたのでしょうか。
両親は、音楽に関係する仕事をしていました。
母はピアニストで、父は楽譜の卸売りをしていました。
ただ、いわゆる華やかな音楽家の家庭というわけではありません。音楽が好きで、それに関係する仕事を細々と続けている家庭でした。
時代が変わり、楽譜をインターネットで入手できるようになったり、コピーできるようになったりして、父は事業を続けることが難しくなりました。
その後はアルバイトなどをしていましたね。
母は現在もピアニストを続けています。
現在も現役なのですね。
クラシックバレエのレッスンで伴奏するピアニストです。
音源を流すだけではなく、先生やダンサーの動きに合わせ、その場ですぐに必要な音を出さなければなりません。
先生との阿吽の呼吸が必要な仕事です。
現在はAIなども発達していますが、簡単には置き換えられない仕事なのだと思います。
母は70代ですが、今も元気に続けています。
ご両親が自分の好きなことを仕事にしていた姿は、江﨑さんの起業にも影響していますか。
影響はあったかもしれません。
両親を見ていて、「やりたいことをやっているな」とは思っていました。
ただ、経済的には決してうまくいっていませんでした。子どもの頃から、音楽で生活していくことの難しさも感じていましたね。
友達がお小遣いを持って駄菓子屋へ行く姿を、道路の反対側から見ていた記憶があります。
「うちにはお金がないんだ」
「将来はお金持ちになりたいな」
と、子どもながらに思っていました。
学校を卒業して、すぐに起業したのでしょうか。
いえ、21歳頃から33歳まで、普通に会社員として働いていました。
お給料もいただいていたので、生活に困ることはありませんでした。
安定した生活がありながら、なぜ起業しようと思ったのですか。
当時の生活に、強い不満があったわけではありません。
ただ、私は飲みに行くことが好きで、一度飲みに行けば1万円くらいかかります。
仮に毎日飲みに行けば、月に30万円必要です。その30万円を自由に使うためには、それ以上に稼がなければいけない。
そう考えたときに、当時の仕事を続けていては難しいと思いました。
毎日飲みに行けるようになりたい、というのが最初の動機だったのですね。
そうですね。
ただ、本当に毎日飲みに行きたかったというより、充実した人生を送りたかったのだと思います。
この仕事をしていると、求職者の方の都合に合わせて、朝9時から面談をしたり、夜21時から面談をしたりすることもあります。
自由な仕事というわけではありません。
ただ、会社から「この時間に来なさい」と言われて自動的に時間を使うのではなく、自分の意思で、誰かのために時間を使っている。
そこは大きな違いだと思います。
最後に、起業したいと思いながらも一歩を踏み出せずにいる読者へ、メッセージをお願いします。
社長になっている人と、会社員として働いている人に、能力的な違いはほとんどないと私は思っています。
目も鼻も口も耳も、脳も手も足も、みんな同じように持っていますよね。
では、人との違いを分けるものは何か。
私は、経験値だと思っています。
だから、まずはやってみることが一番大切です。
経験した回数や場数が多い人ほど、人生に厚みが生まれると思います。
経験がないからこそ、必要以上に怖く感じてしまうこともありますね。
そうですね。
泳げない人にとっては、水に入ること自体が怖いと思います。でも、泳げる人にとっては、それほど怖いことではありません。
起業も同じです。
起業した経験がない人は「怖い」と言いますが、実際にやっている側からすれば、そこまで怖いものではないこともあります。
大切なのは、自分が何を怖がっているのかを具体的にすることです。
お金がなくなることが怖いのか。
社会的な信用を失うことが怖いのか。
失敗したと思われることが怖いのか。
恐怖の正体を明確にすれば、対策も考えられます。
漠然と怖がるのではなく、恐怖の解像度を上げるということですね。
そうですね。
そして、経験は多く積んだほうがいい。
経営者は、「どうしようかな」と悩み続けるのではなく、思いついたらすぐに始める人が多いと思います。
始めてしまえば、あとはやるしかありません。
私は33歳でこの仕事を始めました。決して早いほうではないと思います。
20代であれば、10年間挑戦を続ければ、30代半ばには何かしらの結果が出ている可能性が高い。
それでも理想に近づけていないのであれば、能力が足りないというより、経験を積むスピードがまだ遅いのかもしれません。
能力が低くないのに、怖がって動けない人はたくさんいます。
「また一つ歳を取ってしまった」
「今から始めるのは遅い」
そう言って諦めてしまうのは、もったいない。
自分に合っているかどうかも、実際にやってみなければ分かりません。
だから、やるしかないんです。
自分が良いと思えないものは、人に勧められない。
求職者の希望をただ聞くだけではなく、その人が長く活躍できる可能性を共に探す。
江﨑さんの人材紹介は、売上や採用件数だけを追い求める仕事ではない。求職者と企業の双方に誠実に向き合い、双方にとって意味のある出会いをつくる仕事だ。
そして、江﨑さんが最後に語ったのは、特別な才能や能力ではなく「経験値」の大切さだった。
恐怖の正体を明らかにし、まずはやってみる。失敗も含めて経験を重ね、そのスピードを上げていく。
その積み重ねこそが、会社員と経営者、挑戦する人と立ち止まり続ける人を分けるものなのかもしれない。


