フラッシュモブがまだ日本でほとんど知られていなかった時代から、その可能性に目をつけて事業化。
その後、YouTube、SNSへと領域を広げ、現在は企業向けのSNS制作・運用を手掛ける株式会社OMOSHIRO PROJECT。
代表を務める福井氏の話を聞いていると、一貫しているものがある。
流行を追いかけるのではなく、「これ、おもろいやん」と思ったものにまず飛び込んでみること。
そして、その先にいる人を喜ばせること。
「僕はビジネスマンじゃなくて、商人(あきんど)なんですよ」
その言葉に込められた、福井氏の商売観とこれまでの歩みを聞いた。
まず、現在の事業について教えてください。
株式会社OMOSHIRO PROJECTという会社をやっています。
今のメインは企業さん向けのSNS制作・運用ですね。
個人の方は基本的にやっていなくて、法人さんとの契約が中心です。
今はSNS運用の会社ってめちゃくちゃ増えたと思うんですけど、僕らが始めたのはもう10年くらい前なんですよ。
10年前ですか。
そうです。当時はTikTokもないですし、Instagramにもリールなんてありませんでした。
だから、SNS業界では結構老舗のほうだと思います。
もともとはフラッシュモブの会社として始まって、そこから映像、YouTube、SNSへと広がっていきました。

そもそも、フラッシュモブを事業にしようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
うちの実家が文房具屋だったんです。
小学校4年生くらいから店番をしていて、子どもながらに売上とか商売を見る環境にいました。
ただ、100円ショップができて、コンビニでも文房具が買えるようになって、企業もネットで備品を注文できるようになっていった。
父親からも「お前が大人になる頃には、この商売もどうなっているかわからないから、自分でやりたいことを考えておけ」と言われていました。
そこで子どもながらに考えたんですよ。
「在庫を抱える商売って大変やな」「固定費が大きい商売も大変やな」って。
そんな中、小学校6年生くらいの時にテレビでフラッシュモブを見たんです。
最初は大衆を驚かせるような海外のパフォーマンスだったんですけど、高校生くらいの時に、それがプロポーズに使われているのを見て。
「これ、日本でもできるんちゃうかな」と思ったんです。

ご自身がダンサーだったわけではないんですよね?
全然です(笑)。ダンスはやってないです。
たまたま知り合いが学生団体をやっていて、そこから学生ダンサーを集めることができたんです。一番多い時は200人くらいいました。
僕自身もバンドをやっていたので、表現者が自分の技術を披露する場所が少ないことは分かっていました。
好きなことで少しでもお金をもらえて、しかもそれが誰かの幸せにつながる。
「それってめちゃくちゃいいやん」と思ったんです。
そこからSNS事業には、どうつながったんですか?
フラッシュモブを企業の採用に使えないか、という相談をもらうようになったんです。
ただ、フラッシュモブって「誰かを喜ばせる」というオチがすごく大事なんですよ。
採用動画にそのまま持ってきても、一方的になってしまって感動が生まれない。
そこで海外で流行っていた「リップダブ」という、音楽に合わせて口パクしながら人が次々登場する映像を提案しました。
これならフラッシュモブの知識も使えるし、ノーカットなので当時は高度な編集技術もいらなかった。
それが結構当たったんです。
そこから映像の仕事につながっていきました。
YouTubeに可能性を感じたのもかなり早かったんですね。
そうですね。
当時、YouTuberという言葉が出始めて、「なんでこの人たちがこんなに稼いでるんやろ?」って思ったんですよ(笑)。
調べてみたら、広告収入があって、企業案件があって、ちゃんと仕組みがある。
一方で、僕らもフラッシュモブの動画をYouTubeに上げていました。
最初なんて機材を買うお金がないから、ダンサーたちのiPhoneをかき集めて、両手にiPhoneを持って撮影して(笑)。
Macも持っていなかったので、iPadのiMovieで編集しました。
でも、その動画から仕事が取れたんですよ。

それは大きな成功体験ですね。
そうですね。
そこで思ったんです。
「なんで企業はこれ、自分たちでやらへんのやろ?」って。
撮影して、編集して、YouTubeにアップする。それ自体は無料じゃないですか。
YouTuberになるのに資格が必要なわけでもない。
だったら企業にも絶対使えると思いました。
そこからすぐ事業化したんですか?
いや、まず勉強しました。
「1日25チャンネル見る」と決めて、1年間くらいYouTubeを研究したんです。
当時は今みたいに「YouTubeの伸ばし方」みたいな動画なんてほとんどなかったので。
トップ層、中堅、これから伸びそうな人と分けて、ずっと見ていました。
僕はサラリーマン時代にコンサルティング会社にいたので、3Cとか4P、SWOT分析みたいな基本的な知識はありました。
それとYouTubeを掛け合わせながら、自分なりに考えていった感じですね。
それから企業さんに提案して、SNS事業が始まりました。

ここまで聞くと順調に見えますが、創業から大きな危機はありましたか?
いやいや、常に大ピンチですよ(笑)。
一番大きかったのは、やっぱりコロナですね。
3,000万円くらいあった売上が、180万円くらいになりました。
それは凄まじいですね。
フラッシュモブは人が集まってやるものなので、完全に止まりました。
でも、その時にはすでにYouTube事業をやっていたんですよ。
それまで企業さんにYouTubeを提案しても、「YouTuberって若者が騒いでいるものでしょ」「うちのブランドイメージが下がる」と言われることも多かった。
ところがコロナが来て、一気に状況が変わった。
「あれ、YouTubeやってたよね?」って、逆に企業さんのほうから問い合わせが来るようになりました。
まさに、それまで蒔いていた種が一気に芽を出した。
そうですね。
だから、種まきってめちゃくちゃ大事だと思います。
一つの事業しか持っていなかったら、世の中が変わった時やゲームチェンジャーが現れた時に、一瞬で終わる可能性がある。
フラッシュモブをやりながらSNSをやっていて、本当に良かったと思います。
現在はSNS運用会社もかなり増えています。その中で、OMOSHIRO PROJECTの違いはどこにありますか?
僕らは、再生数とかフォロワー数を最終的な目標にしないんです。
だって、100万回再生されても商品が一個も売れなかったら、ビジネスとしては意味ないじゃないですか。
採用が目的なら採用数。
売上が目的なら売上。
問い合わせが目的なら問い合わせ件数。
そこから逆算して考えます。
例えば「年間10人採用したい」という会社だったら、10人採用するために内定承諾率が何%必要なのか。面談から何人内定するのか。そのためには何件の面談が必要なのか。
さらに、その面談数を作るためにLPへ何人流入させる必要があるのか。プロフィールには何人来てもらう必要があるのか。
そこまで逆算して、初めて「じゃあ必要なリーチ数はこれくらいだよね」となる。
再生数は目的ではなく、途中にある数字なんですね。
そうです。
僕は究極、一再生で一受注が最強だと思っています。
一人しか見ていなくても、その一人に刺さって仕事になるなら、それでいいじゃないですか。
僕らはバズらせたいんじゃない。
フォロワーを増やしたいわけでもない。
お客さんを勝たせたいんですよ。
売上が増えることでお客さんが喜ぶなら、それでいい。
採用が増えることで会社が良くなるなら、それでいい。
SNSは、そのための手段でしかありません。
その考え方は、SNS事業を始めてから生まれたものですか?
いや、フラッシュモブの頃から一緒なんです。
僕らはお客さんに「フラッシュモブをすることを目的にしないでください」って言っていたんですよ。
目的は相手を喜ばせることです。
その手段としてフラッシュモブがあるだけ。
だから、相手のためにならないと思ったら「それ、やめたほうがいいですよ」って言うこともあります。
SNSもまったく一緒なんです。
SNSをやることが目的じゃない。
お客さんが達成したいものがあって、そのためにSNSが必要なら使えばいい。

福井さんにとって、起業や経営の一番の醍醐味は何でしょう。
自分のやりたいことができることじゃないですかね。
自分のやりたいことで人が喜んでくれて、それが世のため、人のためになって、お金をいただける。
僕は自分のことを、あまり「ビジネスマン」だと思っていないんです。
商人なんですよ。商売人なんです。
だから、おもろいことをしたい。
自分が楽しくて、それで誰かが喜んでくれることが嬉しい。
「この事業は儲かりそうだからやろう」と考えて始めたことって、ほとんどないんですよ。
「これ面白いよな」
「世の中のためになるよな」
そこから、
「じゃあ、どうやったら事業にできるかな?」
と考えるんです。
利益から逆算するのではなく、価値から事業化を考える。
そうですね。
子どもの頃、親から「お金って何かわかるか?」と言われたことがあるんです。
その時に教えられたのが、
お金は、感謝の気持ちが形になったものだ
ということでした。
ボールペン一本売ったとしても、店は「ありがとうございました」と言うし、お客さんも必要なものを手に入れられたから、お金を払ってくれる。
その感謝の形が、その商品の値段なんだと。
それを小さい頃から聞いて育ったので、お金を最初に置いて商売を考える感覚があまりないんです。
これから起業する人にも通じる考え方ですね。
ただし、「自分がやりたい」だけではダメだと思います。
自分がいいと思ったものを、どうやったら人が喜んでくれる形にできるのか。
そこはめちゃくちゃ努力が必要です。
自分の商品を「これいいでしょ」と押し出すだけじゃなくて、世の中の人が何を求めているのかを考える。
その困りごとに対する解決策として、自分のサービスを落とし込んでいく。
僕の場合、フラッシュモブだったら「みんなサプライズ好きやん」「楽しいこと好きやん」というところから始まっています。
SNSだったら、企業さんが売上や採用で困っている。
じゃあ、そこを動画やSNSでどう解決できるのか。
僕はまず「なんでみんなこれやってへんのやろ?」って考えるんです。
そこに困っている人がいるなら、埋めてあげることで商売になる。

最後に、起業したいけれど一歩踏み出せずにいる読者へ、メッセージをお願いします。
僕は、悩んでいる理由が「失敗するかもしれない」だけだったら、やったらいいと思います。
もちろん、人によって事情はあります。
お金のことだったり、人からどう思われるかだったり。
でも、それでも「やりたい」が勝つなら、やったらいい。
逆に、そこまでやりたいわけじゃないなら、無理にやらなくてもいいと思います。
あと僕、「社長って世界で一番簡単になれる職業」だと思ってるんですよ(笑)。
世界で一番簡単(笑)。
だって面接ないじゃないですか(笑)。
会社を作れば、形としては社長になれる。
もちろん会社を続けることや、商売を成立させることは別の話ですよ。
でも「社長になる」ということ自体を、ものすごく特別なことだと思わなくてもいい。
それと、起業はいつでもできます。
「今やらないと、この市場に乗り遅れる」というものなら別ですけど、そうじゃないなら無理に焦る必要もない。
40歳から会社を辞めて起業する人だっています。
若くして起業することだけがすごいとも思っていません。
むしろ僕は、会社員として組織の中で上に行ける人もすごいと思っています。
だから、自分が本当にやりたいと思った時に動けばいいんじゃないですかね。
福井さん自身の、これからの展望はありますか?
僕は、やりたいことをやって楽しく商売できれば、それでいいんですよ。
そんなに大きな欲はないです。
強いて言うなら、50代になった時に、若い人たちのお手伝いができる人になりたいですね。
自分が今みたいに新しいことを考えて、全部自分で動くのは、年齢とともに少しずつ変わっていくと思うんです。
だったら、面白いことをやっている若い子たちに、
「ちょっと俺も混ぜてや」
って言いたい(笑)。
その代わり、僕が持っている人脈やノウハウを渡す。
必要だったらお金も出す。
そういう形で、若い人たちの「おもろいこと」に混ぜてもらえる大人になれたらいいなと思っています。

フラッシュモブ、映像、YouTube、SNS。
福井氏が歩んできた道だけを見れば、時代の変化を先取りし続けてきた経営者にも見える。
しかし本人の言葉を追っていくと、その原点はもっとシンプルだ。
「おもろいことをしたい。そして、それで人を喜ばせたい。」
バズも、フォロワー数も、売上さえも目的ではない。
目の前の人を喜ばせ、その人の成功につなげる。その結果として「ありがとう」が生まれ、お金という形になって返ってくる。
「ビジネスマンではなく、商人」。
福井氏が口にしたその言葉に、株式会社OMOSHIRO PROJECTが歩んできた道と、これからも変わらない商売の哲学が凝縮されているように感じた。

